「売りたい営業」と「成果を出したいイネーブラー」のジレンマ
法人営業をしていると、こんな場面に遭遇する。製品デモは好感触だった。相手も「良さそうですね」と言ってくれた。なのに、そこから先が動かない。フォローの電話をしても「社内で検討しています」と繰り返されるだけ。
この停滞の原因は、多くの場合、製品の問題ではない。営業とイネーブラー(顧客社内の企画立案者・案件推進者)の間にある「動機のズレ」が原因であることが多い。
営業は自社の製品やサービスを売りたい。これは当然のことで、何も悪いことではない。
一方、イネーブラーが考えていることは全く違う。彼らは自分の人生に意味のある仕事をしたい。自分の部署で、自分の組織で成果を出したい。上司に認められたい。キャリアを前に進めたい。つまり、自分のサラリーマン人生にとってプラスになることに時間を使いたいと思っている。
この2つの動機は、一見すると相反している。
なぜ「良い製品」だけでは商談が動かないのか
よくある失敗パターンがある。営業が自社製品の素晴らしさを熱心にプレゼンする。機能の豊富さ、他社との比較優位性、導入実績。どれも事実で、嘘はない。
でも、イネーブラーの心の中では別の計算が働いている。「この製品を自社に導入するために、自分はどれだけの労力を使うことになるのか」「稟議を通すために、何人を説得しなければならないのか」「もしうまくいかなかったら、自分の評価はどうなるのか」。
イネーブラーにとって、新しい製品やサービスの導入は「仕事が増える」ことでもある。その仕事が増える分に見合うだけの「自分にとっての意味」がなければ、彼らは動かない。「いいですね」と言いながらも、積極的に推進することはない。
ここが多くの営業が見落としているポイントだと、私は30年の法人営業経験を通じて強く感じている。
「噛み合わせ」を作るという発想
では、どうすればこのジレンマを解消できるのか。
私がたどり着いた答えはシンプルだ。「売りたい」と「成果を出したい」を噛み合わせること。
具体的に言えば、自社の製品やサービスを使って、イネーブラーのビジネスで目に見える成果を出す。そして、その成果によってイネーブラーが社内で認められる状況を一緒に作る。
もっと踏み込んで言えば、「イネーブラーを出世させるつもりで支援する」という覚悟を持つということだ。
製品やサービスは手段にすぎない。その手段を使って、イネーブラーが「このプロジェクトを推進したのは自分だ」と胸を張れる成果を出す。そこにフォーカスすると、営業のアプローチは根本から変わってくる。
製品の機能説明から始めるのではなく、イネーブラーが達成したいことを理解するところから始める。提案書の構成も、イネーブラーが社内で説明しやすい形に変える。フォローアップの内容も、イネーブラーの社内プロセスを支援するものに変わる。
イネーブラーが「自分ごと」として動き始めるとき
この噛み合わせがうまくいくと、商談の風景が一変する。
イネーブラーにとってプロジェクトが「自分の人生に意味のある仕事」になったとき、彼らは自分から動き始める。社内の関係者に声をかけ、稟議のための資料を準備し、予算の確保に動く。営業が無理にプッシュしなくても、イネーブラー自身が案件のドライバーになってくれる。
日本のB2B営業においては、この点が特に重要だ。稟議制度や根回しといった合意形成プロセスの中で、イネーブラーは社内調整の要となる存在だからだ。決裁者に営業が直接アプローチするよりも、イネーブラーが内側から組織を動かす方が、はるかに効果的なことが多い。
そのイネーブラーを動かす鍵が、「この人の成功を本気で支援する」という姿勢なのだ。
停滞案件を見直すヒント
もし今、停滞している案件があるなら、一つだけ自問してみてほしい。
「この案件のイネーブラーは誰で、その人はこのプロジェクトを推進することで、自分のキャリアにどんなプラスがあると感じているだろうか?」
もしその答えが明確でないなら、そこに停滞の原因がある可能性が高い。イネーブラーの個人的な動機を理解し、その動機と自社の提案を結びつけること。そこから商談が再び動き始めることがある。
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