営業手法2026-07-24・ 読了 10

商談で「何を聞くか」を設計しているか——課題を引き出す「診断型質問技法」|BECQA式・法人営業の型 #5

酒井 秀樹
酒井 秀樹
代表取締役
商談で「何を聞くか」を設計しているか——課題を引き出す「診断型質問技法」|BECQA式・法人営業の型 #5

商談で「何を聞くか」を本気で考えたことがあるだろうか。提案内容の準備には力を入れるのに、「どう課題を引き出すか」については意外と感覚任せになっている営業担当者は多い。そのギャップが、勝率の差を生んでいる。

この記事では、外資系B2B営業を30年にわたって経験してきた立場から、課題発見の精度を上げるための「診断型質問技法」を解説する。グローバルトップクラスの企業で何十回とロールプレイを重ねて身につけたこの技法は、明日の商談から即座に使えるものだ。「聞き方」を変えるだけで、会話の質が変わり、提案が変わり、最終的に勝率が変わる。その構造を具体的に説明していく。

商談で最初に解くべき問いは「課題があるか」だ

お客様との商談で最も大切なことは、提案の精度よりも前の段階にある。それは「このお客様は、本当に困っているのか」を早い段階で見極めることだ。

本当に困っていないお客様に対して提案をぶつけるのは、時間の無駄でしかない。どれだけ洗練されたソリューションを持っていても、課題がなければ響かない。だからこそ、真の課題があるかどうかを商談の早い段階で確認できるかどうかが、営業パフォーマンスを左右する最大のポイントになる。

事前準備は「課題を引き出す道具」ではない

「しっかり事前準備をして臨む」ことの重要性は、この連載で繰り返し触れてきた。ただ、ここで一つ注意しておきたいことがある。

事前準備の役割は、「これだけ調べてきました」をお客様に示すためのものだ。信頼関係の入口を作る材料であり、会話の糸口にはなる。しかし、真の課題はそこからは引き出せない。

公開情報や業界レポートからわかることには限界がある。お客様の本音、現場で実際に詰まっている問題、担当者が「当たり前」だと思っているがゆえに見えていない非効率——こうしたことは、目の前のお客様に直接確認するしか方法がない。

「聞く準備」が「話す準備」と同じくらい重要な理由

多くの営業担当者は、商談前に「何を伝えるか」を準備する。プレゼン資料を整え、デモの順序を考え、想定される質問への回答を用意する。

それは必要なことだ。ただ、そこに「どう聞くか」の設計が入っていないと、商談は一方的な情報提供の場になる。お客様が本当に困っていることを話してくれる場にするためには、「聞き方」に意図を持つ必要がある。

「診断型質問技法」が商談の構造を変える

診断型質問とは、問題を決めつけずに、質問を通じて課題を絞り込んでいく手法だ。医者の問診がその原型になる。

医者は「どこが悪いですか」とは聞かない

お腹が痛くて病院に行ったとする。医者は「どこが悪いんですか?」とは聞かない。こう聞いてくる。

  • 「昨日、何を食べましたか?」
  • 「お腹のどのあたりが痛いですか?」
  • 「上の方ですか、下の方ですか?」
  • 「一緒に食べた方で、体調を崩した人はいますか?」

問題を決めつけずに、質問で絞り込んでいく。この構造が「診断」だ。

営業も、まったく同じ構造で動く。「御社の課題は〇〇ですよね」と決めつけるのではなく、順を追って質問を重ねることで、お客様自身も気づいていなかった課題が浮かび上がってくる。

グローバルトップ企業で叩き込まれたロールプレイの現場

私がこの技法を身につけたのは、かつて在籍していたグローバルトップクラスの外資系企業でのことだ。グローバルのセールスミーティング、クォーターごとのレビュー、あらゆる場面でこの質問技法のトレーニングを受けた。日本語でも、英語でも、何十回とロールプレイをやらされた。

最初は「こんな質問を繰り返して、お客様は嫌がらないだろうか」と思っていた。実際にやってみると、まったく逆だった。丁寧に質問を重ねられることで、お客様は「この営業は自分たちのことを理解しようとしている」という印象を持ってくれる。会話が深くなる。それが信頼の入口になる。

繰り返しのロールプレイがなければ、おそらく習得できていなかった技法だと思っている。頭でわかっていても、商談の緊張感の中で自然に使えるようになるには、反復練習しかない。

データプロセスへの質問が、課題を可視化した

実際にこの技法を使ったケースで、特によく覚えているパターンを紹介する。

お客様が「当たり前」と思っていた非効率

データ処理のプロセスを持つお客様との商談でのことだ。

そのお客様は自社のデータ処理の流れを「こういうものだ」と当たり前のように話していた。特に不満を口にするわけでもない。こちらから「課題はありますか?」と聞いても、「特に問題はない」という反応だった。

そこで、診断型の質問に切り替えた。プロセスを一つひとつ順番に追って、各ステップでどのような処理をしていて、どれくらいの時間がかかるかを丁寧に確認していった。

「ボトルネック」が自然に浮かび上がる

質問を重ねるうちに、あるステップで明らかに時間がかかっていることがわかった。お客様自身も「言われてみればそうですね、ここは毎回時間がかかるんです」と口にし始めた。

そこから「ここを改善すると、後工程にこういう影響が出る」という絵が見えてくる。こちらが「課題はここです」と断言するのではなく、質問を通じてお客様自身がそれに気づくプロセスを踏む。そこが重要だ。

この技法と課題発見のスキルは、BECQAのトレーニングプログラム(診断型質問技法コース)で体系的に学ぶことができる。頭で理解するだけでなく、実際の商談を想定したロールプレイを通じて定着させる設計になっている。

「気づき」を与えることが、社内を動かす

診断型質問の価値は、課題を「発見する」だけではない。お客様の社内を動かすための土台を作ることにある。

お客様が課題を言語化できて初めて、社内が動く

「当たり前」だと思っていた課題を、診断型の質問を通じて初めて言語化できるお客様は少なくない。「言われてみれば、ここは毎回詰まっている」「これが解決できれば、後の作業がまるで変わる」——そういう気づきが生まれた瞬間、社内での動きが変わる。

予算を取りやすくなる。上司への説明がしやすくなる。社内承認が通りやすくなる。

提案の通りやすさは、提案書の質だけでは決まらない。お客様の側に「これは解決すべき課題だ」という認識が生まれているかどうかが、もっと大きく影響する。

提案の質と勝率が変わる、根本的な理由

課題の特定精度が上がると、提案の内容が変わる。「御社にはこれが必要だと思います」という根拠のない提案から、「このプロセスのここを改善することで、こういう変化が見込めます」という具体的な提案に変わる。

お客様にとっての解像度が上がる提案は、社内で支持を得やすい。そして、支持を得やすい提案は、競合との比較においても強い。

これは理屈ではなく、現場で繰り返し経験してきたことだ。聞き方が変わると、課題の見え方が変わる。課題の見え方が変わると、提案が変わる。提案が変われば、勝率が変わる。

商談スタンスを根本から変える、一つの問いかけ

技法の話をここまでしてきたが、最後に一番シンプルなことを言う。

「解決策を売ろうとしているか、課題を探ろうとしているか」

次の商談に入る前に、自分にこう問いかけてみてほしい。

「自分は今、解決策を売ろうとしているか。それとも課題を探ろうとしているか?」

診断型質問は、商談のスタンスを根本から変える。お客様の話を「提案に繋げるための情報収集」として聞くのと、「課題を一緒に明らかにするために聞く」のとでは、会話の空気がまったく違う。お客様もそれを感じ取る。

まず一つの質問から変えてみる

難しく考える必要はない。次のお客様との商談で、一つだけ試してほしいことがある。

「当社のサービスについて何か質問はありますか?」と聞く前に、こちらから先に質問を一つ投げかけてみる。

「現在の〇〇のプロセスは、どのような流れで進んでいますか?」

たったこれだけで、会話の方向が変わる。お客様が話し始め、そこから診断型の質問を重ねていける。最初の一手を変えるだけで、商談の質は確実に上がっていく。

次の商談までの持ち帰り

  • 入室前の自問:「自分は今、解決策を売ろうとしているか。課題を探ろうとしているか」
  • 最初の一手:説明を始める前に、こちらから質問を一つ——「現在の〇〇のプロセスは、どのような流れで進んでいますか?」
  • 「課題はない」と言われたら:プロセスを一つずつ順番に追う質問へ切り替える

よくある質問

Q. 診断型質問は、どのタイミングで使うのが効果的ですか?

A. 初回ミーティングから使える。事前準備で企業情報を押さえたうえで「御社のプロセスについて教えてください」と入るのが自然だ。初回で課題の全体像を掴まないと、その後の提案が的外れになるリスクが上がる。

Q. 診断型質問をすると、お客様が「根掘り葉掘り聞かれている」と感じませんか?

A. 実際は逆の反応になることが多い。医者の問診と同じで「自分たちを理解しようとしてくれている」という印象を与える。「課題を一緒に整理したい」というスタンスが伝わっていれば、質問の量は問題にならない。

Q. お客様が「特に課題はない」と言った場合、どうすればいいですか?

A. それ自体が重要な情報だ。引き下がる前に、プロセスを順番に追う質問を試してほしい。「当たり前」のプロセスに課題が潜んでいることは多い。一方で、本当に困っていないお客様を早く見極めること自体も、診断型質問の目的の一つだ。

Q. 診断型質問は、新規開拓と既存顧客、どちらで効果が高いですか?

A. どちらでも有効だ。新規は「御社のプロセスを教えてください」で全体像から。既存は「前回からプロセスに変化はありましたか?」で新たな課題を掘り起こせる。関係が深い分、踏み込んだ質問ができるのが既存の強みだ。

Q. 診断型質問のスキルを組織全体に展開するには、どうすれば良いですか?

A. 知識の共有だけでは定着しない。ロールプレイの反復が前提だ。私自身、何十回というロールプレイで習得した。マネージャーが商談前後に「どんな質問をしたか」を確認する習慣を根付かせることが、組織展開の第一歩になる。


「聞き方」をチームの型にしたい方へ

診断型質問技法をロールプレイで体得するには、BECQAトレーニングのコース一覧(商談化率をアップする診断型質問技法コース)をご覧ください。まず自社の営業の現在地を知りたい方は無料の営業力診断から——診断される側の体験も、一度してみてください。

(この連載では今後、提案書の10要素/クローズプラン=共有スケジュールの作り方/セールスステージの設計、などを順に書いていく。仮説構築については第3回「仮説先行型営業」を参照)


この記事は Voible で執筆しました。

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酒井 秀樹
酒井 秀樹
代表取締役

大学卒業後、日本総研に入社。その後、SAP、Adobe、Qlik、Sitecore、Tealiumをはじめとする各分野のリーダー企業で30年以上にわたり、カントリーマネージャー、セールスディレクター等を歴任。その豊富な経験を生かし、セールストレックを創業。BECQAフレームワークを開発。

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