営業手法2026-03-07・ 読了 6

営業成約率を上げる予算サイクル活用法 — 顧客の予算獲得・執行タイミングを見極めて商談を成功させる方法

酒井 秀樹
酒井 秀樹
代表取締役 / B2Bセールスコンサルタント
営業成約率を上げる予算サイクル活用法 — 顧客の予算獲得・執行タイミングを見極めて商談を成功させる方法

「予算がない」— その一言で引き下がっていませんか

B2Bの法人営業をしていると、「今は予算がありません」という言葉を何度も聞くことになります。

私も法人営業を始めたばかりの頃は、この言葉を額面通りに受け取って「それなら仕方ない」と引き下がっていました。そして数ヶ月後に同じお客様に連絡すると、すでに競合他社が契約済み。「えっ、予算がないって言ってたのに?」と愕然とした経験が何度もあります。

あの頃の自分に教えてあげたいこと。「予算がない」は終わりの合図ではなく、お客様の社内で今何が起きているかがわからなかったということ。

この記事では、企業の予算サイクルの仕組みを解説し、営業としてどのタイミングで何をすべきかをお伝えします。


企業は予算サイクルで動いている

企業が製品やサービスを購入する際、特に高額な投資になる場合は、必ず「予算」が必要です。当たり前のことのように聞こえますが、この「予算がどのようにして生まれ、どのように使われるか」を体系的に理解している営業は意外と少ないのが現実です。

企業の予算サイクルは、大きく2つのプロセスで構成されています。

1つ目が予算獲得プロセス。これは「業績に貢献したいので、この企画を承認してください」という社内の動きです。

2つ目が予算執行プロセス。これは「獲得した予算を使って、企画を実行するぞ」という段階です。

この2つのプロセスが連なって、企業の購買活動は成り立っています。法人営業としてこの仕組みを理解しているかどうかが、成果に雲泥の差をもたらします。


予算獲得プロセス — 企画が予算に変わるまで

予算獲得プロセスは、社内の誰かが「ビジネス上の課題を解決したい」と考えるところから始まります。

その人は企画書を作成し、上司に相談し、部門予算として申請します。部門予算が全社予算に組み込まれ、さまざまな調整を経て、最終的に承認される。一般的な企業(4月始まりの場合)では、このプロセスは前年度の4月〜7月頃に企画の検討が始まり、8月〜10月に部門予算の申請、10月〜12月に全社予算への組み込み、1月〜3月に最終調整と承認、というスケジュールで進みます。

ここで押さえておきたいのは、高額な製品やサービスの購入には予算化が必須だということ。翌会計年度で使う予算は前年度末にはほぼ確定しています。つまり、予算に入っていなければ、基本的にその年度には買えない。

そしてこのプロセスを推進しているのが「イネーブラー(企画立案者)」です。イネーブラーは企画書を作り、社内の関係者を説得し、承認プロセスを通して予算を獲得する。いわば、購買の起点となる人物です。


予算執行プロセス — 予算が契約に変わるまで

予算が承認されると、次は予算執行プロセスに入ります。

この段階では、獲得した予算を使って実際に製品やサービスを選定し、契約まで持っていきます。一般的な流れとしては、情報収集から始まり、RFP(提案依頼書)の発行、一次選考、提案の受領と評価、最終選考、そして契約締結。企業の規模や業種によりますが、このプロセスには数ヶ月を要することも珍しくありません。

ここで注意すべきは、予算執行プロセスでは予算獲得プロセスよりも多くの人やチームが意思決定に関わるということです。IT部門、法務、購買、経営層...それぞれの立場から評価が行われ、すべての関係者から「グリーンフラグ」を得る必要がある。

営業の多くは、この予算執行プロセスから参入しようとします。お客様から「こんなものを探しています」と声がかかるのがこの段階だからです。しかし、ここからの参入では手遅れになるケースが少なくありません。


なぜ予算獲得プロセスからの関与が重要なのか

予算執行プロセスの段階でお客様にアプローチした時、すでに別のベンダーが予算獲得の段階からイネーブラーを支援しているケースがあります。

つまり、企画書の中身がそのベンダーの製品やサービスを前提に作られていて、選定基準もそのベンダーに有利な形で設定されている。形式上は公正なコンペが行われていても、実質的に勝負がついている状態です。

私が外資系IT企業で営業チームを率いていた時、案件レビューでよく確認していたのが「この案件の予算は誰がどうやって動かしているのか?」という点でした。予算獲得の段階から自社が関与していた案件は成約率が明らかに高い。逆に、予算執行段階から入った案件は苦戦することが多かった。

この経験から学んだのは、営業のタイミングは「声がかかってから」ではなく、「イネーブラーが企画を考え始めた段階」がベストだということです。


予算サイクルの知識を営業に活かす3つのポイント

では、この予算サイクルの理解を、日々の営業活動にどう活かすか。

まず、お客様が今、予算サイクルのどの段階にいるかを確認する習慣をつけること。これは直接聞いてしまって構いません。「今回のプロジェクトは、すでに予算が確定していらっしゃるのでしょうか。それとも、これから予算を申請される段階でしょうか」と。この質問だけで、営業として何をすべきかが明確になります。

次に、お客様の段階に応じて提供する情報を変えること。予算獲得段階のイネーブラーには、企画書に使える情報を提供する。投資対効果の試算、類似企業での導入実績、想定される効果など。イネーブラーが社内で「この投資は必要だ」と説得するための武器を渡してあげるわけです。一方、予算執行段階のお客様には、選定基準に沿った具体的な提案と、社内の承認プロセスをスムーズに通すための資料を提供する。

そして、「予算がない」と言われた時に諦めないこと。予算がないのは、予算獲得プロセスがまだ始まっていないのかもしれない。あるいは、始まっているけれど承認が下りていないのかもしれない。状況を丁寧に聞くことで、次のアクションが見えてきます。場合によっては、イネーブラーが企画を立ち上げるところから支援できるかもしれません。


まとめ — 予算サイクルの理解が営業の武器になる

企業は予算サイクルで動いている。予算獲得プロセスと予算執行プロセスという2つの段階があり、そのプロセス全体を推進しているのがイネーブラーである。

営業としてこの仕組みを理解し、お客様が予算サイクルのどこにいるかを常に把握すること。それだけで、提案のタイミング、提供する情報の質、そしてお客様との関係性が大きく変わります。

BECQAフレームワークの「B(Business理解)」は、まさにこうした企業活動の基本を理解することから始まります。お客様のビジネスを理解するとは、表面的な売上や戦略だけでなく、予算がどう生まれ、どう使われるかという社内の仕組みを理解すること。

この視点を持つだけで、営業としての動き方が根本から変わるはずです。


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酒井 秀樹
酒井 秀樹
代表取締役 / B2Bセールスコンサルタント

大学卒業後、日本総研に入社。その後、SAP、Adobe、Qlik、Sitecore、Tealiumをはじめとする各分野のリーダー企業で30年以上にわたり、カントリーマネージャー、セールスディレクター等を歴任。その豊富な経験を生かし、セールストレックを創業。BECQAフレームワークを開発。

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