はじめに——「いい提案なのに刺さらない」理由
B2B営業をしていて、こんな経験はないだろうか。入念に準備した提案資料、分かりやすいデモ、説得力のある導入事例。自分としては「これは響くはずだ」と確信して臨んだのに、お客様の反応がいまいちだった——。
こういうとき、多くの営業パーソンは「伝え方が悪かったのか」「資料のクオリティが足りなかったのか」と反省する。しかし、本当の問題はもっと根本的なところにある場合が多い。
それは、お客様が今最も重視している投資領域と、自分の提案がずれていた、ということだ。
私は外資系IT企業でカントリーマネージャーを歴任し、30年にわたって法人営業に携わってきた。その中で学んだ最も重要な教訓の一つが「企業が投資する領域は、売上アップとコストダウンだけではない」ということである。
今回は、企業活動の前提として押さえるべき「5つのビジネスドライバー」について解説し、なぜこの見極めがB2B営業の成否を分けるのかをお伝えしたい。
利益の2軸——売上アップとコストダウン
まず基本を整理しよう。企業の目的は利益を上げることであり、利益を増やすには大きく2つの方向性がある。
一つは売上を上げること。もう一つはコストを下げること。これは経営の基本中の基本だ。
さらに売上を上げるためには、客数を増やすか、客単価を上げるか、購入頻度を高めるかという3つの変数がある。この考え方自体はシンプルだが、お客様のビジネスを理解するうえで非常に重要なフレームワークになる。
多くの営業パーソンはここまでは理解している。しかし、問題はこの2軸だけで企業を分析した気になってしまうことだ。
見落とされがちな3つの投資領域
企業が利益を増やすための活動以外にも、経営として重要視して投資を行う領域がある。ここを見落とすと、提案の方向性そのものがずれてしまう。
私の経験から、この「その他の重要な要素」は大きく3つに集約できると考えている。
リスク管理
企業は「攻め」の投資だけでなく、「守り」にも真剣にお金を使う。サイバーセキュリティ対策、コンプライアンス体制の整備、事業継続計画(BCP)の策定。これらは直接的に売上を伸ばすわけではない。しかし、これを怠った結果として情報漏洩や法令違反が発生すれば、企業は存続の危機に直面する。
特に近年は、DXの推進とともにサイバーリスクが増大し、多くの企業がリスク管理への投資を強化している。中期経営計画にリスク管理を重点施策として掲げる企業が増えているのは、まさにこの背景がある。
自分たちのソリューションがリスクを低減する価値を持っているなら、売上アップの文脈で語っても響かない。「このソリューションを導入することで、御社のリスクをどう低減できるか」という切り口で語る必要がある。
組織力の向上
人材育成、チームビルディング、社内コミュニケーションの改善、業務プロセスの最適化。これらは数字にしにくいテーマだが、経営者が非常に重視している領域だ。
中期経営計画を読むと、「人的資本経営」「組織変革」「タレントマネジメント」といったキーワードが頻繁に出てくる。特に日本企業では、少子高齢化に伴う人材不足が深刻化する中で、今いる人材をいかに育て、組織全体の力を底上げするかが経営の最重要課題になっている企業も少なくない。
自分たちのサービスが「人を育てる」「チームを強くする」「業務の質を高める」効果を持つなら、そこを明確に訴求するべきだ。売上やコストの話に無理に紐づけるよりも、組織力向上という文脈で語ったほうが刺さる場面は多い。
イノベーションの強化
新規事業の創出、研究開発(R&D)への投資、デジタルトランスフォーメーション。これは「未来への種まき」であり、今の売上を伸ばすこととも、今のコストを下げることとも性質が異なる。
まだ存在しない価値を作ろうとする活動であり、企業の長期的な競争力に直結する。成長を志向する企業であればあるほど、イノベーション領域への投資意欲は高い。
自分たちのソリューションがイノベーションを加速する効果を持つなら、「既存の業務を効率化します」という語り方よりも、「新しい取り組みを実現するための基盤になります」という切り口のほうが、お客様の心に刺さる場合がある。
5つのビジネスドライバーを見極める
ここまでを整理すると、企業が投資する領域は次の5つになる。
売上アップ、コストダウン、リスク管理、組織力向上、イノベーション強化。
B2B営業として最初にやるべきことは、自分たちが持っているサービスやソリューション、製品が、この5つのどこに効くのかを整理することだ。一つの製品が複数の領域にまたがることもある。それぞれの領域に対して、どのような価値を提供できるかを言語化しておくことが重要だ。
次にやるべきは、提案先の企業がどの分野に注力しているかを見極めること。最も有効な情報源は中期経営計画だ。上場企業であればIR資料として公開されていることが多いし、非上場企業でもホームページや会社概要に経営方針が記載されている場合がある。
どの事業部がどの分野にどれだけの重点を置いているか。この情報をつかんでから提案を組み立てるのと、何も調べずに製品説明を始めるのとでは、お客様の受け取り方がまったく違う。
この見極めがないとどうなるか
この見極めなしに提案するとどうなるか。
たとえば、お客様がリスク管理に最も予算を割いている年に、「この製品を使えば売上が伸びます」と提案したとする。たとえそれが事実だとしても、お客様の優先事項とずれている。結果として「今年はその方向の投資は考えていない」と言われてしまう。
逆に、お客様がイノベーション強化に注力しているタイミングで、「コスト削減効果があります」と語っても、経営者の関心とは噛み合わない。
そしてもう一つ重要なこと。お客様は営業が自社を勉強してきたかどうかを、非常に敏感に見ている。中期経営計画を読みもせずに製品の機能説明をしている営業に対して、お客様は「この人はウチのことを理解していないな」と感じる。信頼を得るどころか、その時点で「この営業と深い話をしても意味がない」と判断されてしまう。
まとめ——企業のビジネスを理解することが出発点
B2B営業において、お客様の企業を理解するということは、単に「何を売っている会社か」「業績はどうか」を調べることではない。
その企業が利益を拡大するために、そして会社をさらに強くするために、どの領域にどのように投資しようとしているのかを理解すること。売上アップ、コストダウン、リスク管理、組織力向上、イノベーション強化——この5つのビジネスドライバーのうち、どこに重点が置かれているかを見極めること。
これが顧客中心営業の出発点であり、BECQAフレームワークにおける「B(Business)」の本質でもある。
次にお客様を訪問する前に、まずその企業の中期経営計画を開いてみてほしい。5つのビジネスドライバーのどこに力を入れているかが見えてくるはずだ。それだけで、提案の切り口は大きく変わる。
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