この記事で得られること
- 従来型営業が「なぜ成約率が低いのか」の構造的な原因がわかる
- BECQAフレームワークの5つの要素とその実践方法がわかる
- 「製品を売る営業」から「顧客の成功を伴走する営業」への転換ポイントがわかる
- 明日から実践できるBECQAアプローチの第一歩がわかる
30年で見えた「勝つ営業」と「負ける営業」の分岐点
外資系IT企業で30年間B2B営業に携わってきました。複数の企業でカントリーマネージャーを務める中で、一つ明確に気づいたことがあります。
成約率が低い営業と高い営業の差は、スキルではなく「アプローチの順序」にある。
どれだけトークが上手くても、どれだけ提案書が美しくても、アプローチの順序を間違えると成約率は上がりません。
従来型営業の5つの落とし穴
多くのB2B営業チームが陥っている典型的なパターンがあります。
落とし穴1:製品説明からスタートする
商談の最初に製品デモやスライドを見せる。これが最も多い失敗パターンです。
顧客はまだ「この製品が自分たちの課題を解決するか」を判断する前に、機能一覧を見せられます。結果、「面白い製品ですね。検討します」で終わる。
落とし穴2:営業プロセスが見えない
「今この案件はどのフェーズにあるのか」「次に何が起きるべきか」が曖昧なまま案件を追いかけます。進捗確認は「お客様に連絡しましたが、まだ返事がありません」の繰り返し。
落とし穴3:意思決定者が曖昧
「誰が最終決裁するのか」「どのようなプロセスで決まるのか」を把握しないまま、目の前の担当者だけとやり取りしている。
落とし穴4:本当の課題がわからないまま提案する
顧客が口にする「課題」は、多くの場合、表面的な症状です。その奥にある本質的な問題を掘り下げずに、表面的な課題に対して提案する。
落とし穴5:営業の努力が「量」に偏る
アポイントの数、提案書の数、訪問回数。「もっと動け」がマネジメントの指示になっている。しかし、的を外した努力は成果に繋がりません。
これらはすべて、営業が自社の都合(製品を売りたい)を起点にしていることが根本原因です。
BECQAフレームワーク ── 顧客の成功を起点にする5つの要素
私が開発したBECQAフレームワークは、これらの課題に対する解答です。5つの要素は、そのまま「営業が取るべきアクションの順序」を示しています。
B ── Business Understanding(ビジネス理解)
商談の前に、顧客のビジネスを理解する。
具体的には、初回訪問の前に以下を準備します。
- 顧客企業の財務状況(IR情報、決算短信)
- 業界動向と競合環境
- 中期経営計画で掲げている重点テーマ
- キーパーソンの経歴と関心事
そして、これらの情報から「この企業の本当の課題はこれではないか」という仮説を立てます。
製品説明から始める従来型と異なり、BECQAでは「御社のビジネスをこう理解しています。この課題についてお話を聞かせてください」から始まる。この違いが、顧客の反応を根本的に変えます。
E ── Enabler(イネーブラー)
意思決定者ではなく、社内の推進者を見極め、支援する。
日本の組織では意思決定者を直接狙うよりも、社内で課題解決を推進する「イネーブラー」を見つけ、その人の成功を全力で支援する方が効果的です。
イネーブラーの見極め方と支援方法の詳細は、イネーブラー戦略の記事をご覧ください。
C ── Close Plan(クローズプラン)
顧客と共有する、契約までのロードマップを作る。
「いつ」「誰が」「何をするか」を顧客と一緒に見える化します。クローズプランがある案件とない案件では、成約率に13〜31%の差が出るというデータがあります。
詳しくはクローズプランの記事をご参照ください。
Q ── Question(診断型質問)
本質的な課題を発見するための質問技法。
従来型営業の質問は「何にお困りですか?」というオープンすぎる質問か、「この機能は必要ですか?」という自社製品ベースの質問です。
BECQAの診断型質問は、B(ビジネス理解)で立てた仮説をベースに、段階的に深掘りしていきます。
5段階の質問アプローチ:
- 状況把握: 現状をファクトベースで確認する
- 関連発見: 仮説と現実のギャップを探る
- 根本原因の特定: 表面的な症状の奥にある原因を突き止める
- 価値の発見: 課題が解決されたときのインパクトを数値化する
- コミットメントの獲得: 次のステップへの合意を得る
この質問プロセスを経ることで、顧客自身が「確かにこれは解決すべき課題だ」と認識するようになります。
A ── AI Strategy(AI戦略)
AIを活用して営業プロセスを効率化する。
B〜Qの各ステップで、AIは強力なツールになります。
- B(ビジネス理解): 企業分析、財務データの要約、業界レポートの整理
- E(イネーブラー): ステークホルダーマッピングの整理
- C(クローズプラン): タイムラインの可視化、リスクの洗い出し
- Q(質問): 質問リストの事前設計、ミーティングメモの整理
重要なのは、AIは「効率化」の道具であって「差別化」の道具ではないということ。戦略的思考と人間関係構築は、今も人間の領域です。
従来型 vs. BECQA ── 決定的な差
| 観点 | 従来型営業 | BECQAアプローチ | |---|---|---| | 起点 | 製品の特徴 | 顧客のビジネス課題 | | ターゲット | 意思決定者 | イネーブラー(推進者) | | 進捗管理 | 営業側のパイプライン | 顧客と共有するクローズプラン | | 質問の質 | 表面的・製品ベース | 診断型・仮説ベース | | AIの位置づけ | 未活用 or 全依存 | 効率化ツールとして戦略的活用 | | ゴール | 製品を売ること | 顧客の成功を伴走すること |
まとめ
成約率が低い営業と高い営業の差は、「スキル」ではなく「アプローチの順序」にあります。
BECQAフレームワークの本質は「初回でお客様を見極めて、最後は導く」こと。製品を売り込むのではなく、顧客の成功を伴走する営業です。
この転換は一朝一夕にはできませんが、まず「B(ビジネス理解)」── 次の商談の前に30分だけ顧客の企業研究をする ── これだけで、顧客の反応は劇的に変わります。
次のステップ
BECQAフレームワークの各要素について詳しく知りたい方は、BECQAフレームワーク入門をご覧ください。
BECQAフレームワークを組織に導入するためのトレーニングにご興味がある方は、BECQAトレーニングサービスのページをご確認ください。




