AI活用2026-07-08・ 読了 8

AI協働型顧問という仕事を始めた理由

酒井 秀樹
酒井 秀樹
代表取締役
AI協働型顧問という仕事を始めた理由

中小企業がAI導入で行き詰まっている、という相談を受けることが増えている。「やる気もある。予算もある。でも何から手をつければいいか分からない」——そういう会社が、本当に多い。この記事では、なぜ多くの会社がAI導入で頓挫するのか、そしてその構造的な問題をどう解決するかを、30年の法人営業経験とAI開発の実務をもとに解説する。「AI協働型顧問」という仕事を始めた背景と、その具体的なアプローチを通じて、中小企業のDX推進に関わるすべての人に届けたい考え方がある。

中小企業の「困りごと」の正体

やる気も予算もあるのに、なぜ動けないのか

最近つくづく感じることがある。

中小企業は、困りごとで溢れている。本当に、溢れている。

「AIを使いたい」「DXを進めたい」「業務をもっと効率化したい」——その気持ちは本物だ。経営者も現場も、変わらなければという危機感を持っている。予算も、ある程度は確保できている。

なのに、動けていない。

現場を見ると、何から手をつければいいか分からなくて止まっている会社が山ほどある。これは能力の問題ではないし、やる気の問題でもない。戦略の問題ですらない。

一緒に手を動かしてくれる人がいない。そして「小さく動かして確かめる」というやり方を知らない。

それだけなんだ。

「困りごと」は整理されていない

もう一つ気づいたことがある。中小企業の困りごとは、整理されていない状態で溢れているということだ。

「AIを使いたい」という言葉の裏に、本当の課題がある。属人化した業務フローかもしれない。情報共有の非効率さかもしれない。あるいは、営業のフォローアップが追いついていないことかもしれない。

表面に出てきた「AIを使いたい」という言葉をそのまま受け取って動いてしまうと、実装したものが現場で使われないまま終わる。これがAI導入失敗の、もう一つの典型パターンだ。

本質的な課題を特定する力がなければ、どんなに優れたAIツールを持ってきても、問題は解決しない。

なぜAI導入は頓挫するのか

「最初から大きく作る」という罠

多くの会社がAI導入で失敗するパターンは、ほぼ決まっている。

最初から大きく作ろうとする。要件定義に何ヶ月もかける。立派なドキュメントができあがる。ベンダーとの打ち合わせが繰り返される。そして気づいたときには、誰も動けなくなっている。

なぜそうなるのか。「完璧なものを作ってから動かす」という順番で考えているからだ。

でも現実には、完璧な要件は最初には分からない。実際に動くものを触って初めて「あ、これじゃない」「これが欲しかったんだ」という感覚が生まれる。その感覚なしに要件を固めようとするから、ドキュメントは立派になっても、現場の実態とズレていく。

「動くコア」から始めるという逆転の発想

僕はその逆をやる。

一番効く一点を見つけて、AIで「動くコア」を小さく作る。効くと分かってから、初めて広げる。

要件定義より先に、動くものを作る。動くものを触ってもらう。「あ、これだ」という感覚を、一緒に掴む。その順番を変えるだけで、プロジェクトの生存率は劇的に変わる。

大事なのは「一番効く一点」を最初に特定することだ。全部を一度に解決しようとしない。まず一点に集中して、小さく動かして、効果を確認する。それが確認できて初めて、次のステップに進む。

このやり方は、実は30年の営業経験から来ている。複雑な組織の中で大型案件を動かすとき、全部を一度に解決しようとすると必ず頓挫する。「最初の一点でグリーンフラグを立てる」——その感覚は、AI導入にも完全に同じように当てはまる。

30年の営業経験が、ここで噛み合った

顧客理解という、現場でしか身につかないスキル

外資系IT企業でアカウントエグゼクティブ、セールスディレクター、カントリーマネージャーと、30年間ずっと法人営業の現場にいた。SAP、Adobe、Qlik、Sitecore、Tealiumなど、複数の外資系企業で、複数の役割を経験した。

その中で徹底的に鍛えられたのは、顧客を理解する力だ。

表面に出てきた要望の裏に何があるか。誰が本当の意思決定者で、何を恐れているか。組織の中でその課題がなぜこれまで解決されてこなかったか。それを短時間で読み解いて、相手が「そうそう、それなんだよ」と言う言語で返す。

これは現場でしか身につかないスキルだ。研修では教えられない。マニュアルには書けない。何百回もの商談の中で、失敗しながら積み上げてきたものだ。

この顧客理解の力は、AI協働型顧問という仕事において、最も重要な武器になっている。「AIを使いたい」という言葉の裏にある本質的な課題を特定すること。それ自体が、価値の源泉だからだ。

AI開発力という、もう一つのピース

そしてここ数年、自分でAIを使い、AIアプリを作れるようになった。

複数のAIを組み合わせて実際に動くプロダクトを開発し、自分のトレーニングビジネスにも実装してきた。BECQAというB2Bエンタープライズセールスのオリジナルフレームワークを、AIを活用したアプリケーションとして形にしてきた経験がある。

これは理論じゃない。実際に作った経験として持っている。

「AIで何ができるか」を肌感覚で知っている。どこに限界があるかも知っている。どう組み合わせれば現場で使えるレベルのものができるかも、試行錯誤の中で身につけた。

顧客理解力 × 課題解決のアイデアを引き出す営業思考 × AI開発力。この三つが今、自分の中で初めて完全に噛み合った感覚がある。

「AI協働型顧問」という仕事のかたち

コンサルでも開発会社でもない

コンサルタントでも、システム開発会社でもない。

コンサルは方向性を示すけど、一緒に手を動かさない。「あるべき姿」を描いたドキュメントが納品されて、実装は別の話になる。開発会社は作るけど、現場の課題の本質を読む力が弱い。「言われたものを作る」という発想から抜け出せない。

そのどちらでもない仕事をしている自分に、ちゃんと名前をつける必要があった。

AI協働型顧問。

「協働」というのがポイントで、AIと一緒に動く、そしてクライアントと一緒に動く、という両方の意味が込めてある。

「困りごとを聞く→動くものを作る→広げる」というサイクル

実際の進め方はシンプルだ。

困りごとを聞く。本質的な課題を特定する。そこに効く一点を見つける。小さく動くものを作る。効果を確認する。広げる。

このサイクルを、クライアントの隣で回し続ける。

重要なのは「クライアントの隣で」という部分だ。資料を渡して終わりじゃない。動くものを一緒に触ってもらって、「あ、これだ」という感覚を確認してから次に進む。その感覚を共有することが、プロジェクトを前に進める原動力になる。

エンタープライズ営業でイネーブラー(社内でプロジェクトを推進する人物)と一緒にクローズプランを作るとき、相手の社内事情を理解しながら一歩一歩前に進む感覚と、まったく同じものがここにある。

なぜ今、この仕事を始めたのか

「助けられるんじゃないか」という手応え

正直に言うと、これは最近になって初めて感じた手応えだ。

30年の営業経験と、AI開発の経験が別々にあった。でも、それが一つの仕事として噛み合う場面は、これまでなかった。

それが今、噛み合った。

世の中の中小企業の困りごとに、この形で向き合えるんじゃないか。「AIを使いたいけど動けない」という会社を、実際に動かすことができるんじゃないか。その手応えが、この仕事を始めた理由だ。

形にして届けることの意味

「助けたい」という気持ちだけでは、何も変わらない。

実際に形にして、届けることが大事だ。動くコアを作って触ってもらう。効果を確認する。広げる。——これはAI導入のアプローチと同じで、自分のサービス自体にも当てはまる。

30年かけて作ってきたものと、ここ数年で身につけたものが、やっと一つの仕事になった。その仕事で、困っている人を助けることができる。

そういう実感が、今ある。

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酒井 秀樹
酒井 秀樹
代表取締役

大学卒業後、日本総研に入社。その後、SAP、Adobe、Qlik、Sitecore、Tealiumをはじめとする各分野のリーダー企業で30年以上にわたり、カントリーマネージャー、セールスディレクター等を歴任。その豊富な経験を生かし、セールストレックを創業。BECQAフレームワークを開発。

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