営業手法2026-07-24・ 読了 9

トップセールスの成功を、なぜ誰も再現できないのか——顧客を「社内で勝たせる」という視点|BECQA式・法人営業の型 #2

酒井 秀樹
酒井 秀樹
代表取締役
トップセールスの成功を、なぜ誰も再現できないのか——顧客を「社内で勝たせる」という視点|BECQA式・法人営業の型 #2

トップセールスが案件を獲ってきた。チームは「すごい」と思っている。でも、なぜうまくいったのかを誰も言語化できていない。だから次の人に教えられない。この繰り返しに、心当たりはないだろうか。

エンタープライズのB2B営業において、「再現性」を持てるかどうかは、チームの成否を分ける問題だ。この記事では、私が30年の法人営業経験をもとに開発したBECQAフレームワークの基本的な考え方——とりわけ「顧客の社内プロセスをどう攻略するか」という観点から、明日の商談に使える具体的な視点を解説する。

「属人的な成功」が組織の壁になる理由

再現性のない営業組織が抱える問題は、スキルの問題ではない。「何がうまくいったか」が言語化されていないことにある。

SAP、Adobe、Qlikなど複数の外資系リーダーIT企業で現場に立ち続けてきた。カントリーマネージャーとしてチームを率いた経験もある。その中で痛感したのは、個人の勘と経験に依存した営業は必ずどこかで限界が来るということだ。

成功が「伝説」になってしまう構造

トップセールスが大型案件を取ってくる。社内では称賛される。ただ、振り返りの場で「なぜうまくいったか」を聞いても、「お客様との信頼関係があったから」「タイミングが良かった」といった曖昧な言葉しか出てこないことが多い。

悪意があるわけではない。本人も言語化できていないのだ。身体で覚えた動作を言葉にするのが難しいのと同じで、経験が深ければ深いほど、「なぜうまくいったか」の説明は難しくなる。

言語化しないと教えられない

結果として、若手やミドル層は「見て盗め」という状態に置かれる。ロールプレイや同行でなんとなく雰囲気を学ぶが、核心にある判断基準やアプローチの順序は伝わらない。

私がBECQAフレームワークを作ったのは、まさにここへの問題意識からだ。自分がうまくいってきたことを、チームメンバーに「再現できる形」で渡したかった。フレームワークとは本来、そのためにある。

B2B案件の難所は「顧客の社内」にある

商品説明や価格交渉より、はるかに難しいことがある。顧客の社内プロセスを攻略できるかどうか、だ。

窓口の担当者が「いいですね」と言っても、案件は動かない。その言葉の裏に、上司がいる。別の部門がいる。情報システム部がいる。法務がいる。それぞれが違う懸念を持ち、違う評価基準で判断する。外から見えない社内政治の中で、自分たちの提案が生き残れるかどうか。ここが勝負だ。

担当者の成功を支援する

私がチームに常に言ってきた言葉がある。「担当者の成功を死ぬ気で支援する」だ。

担当者は、あなたの商品を評価してくれている。推進したいとも思っている。でも社内には、懐疑的な上司がいる。「なぜ今必要なのか」と問う別部門のリーダーがいる。その質問に、担当者はひとりで答えなければならない。弾薬を渡さずに戦場に送り出すようなものだ。

顧客の社内を「見えない戦場」として設計する

エンタープライズ案件を攻略するには、顧客の社内で何が起きているかを把握し、担当者が「戦うこと」を理解して、後方支援することが求められる。それは営業の仕事の延長ではなく、営業の仕事そのものだ。

この視点を持てているかどうかで、同じ提案書を出しても結果が変わる。顧客の担当者が「社内で説明しやすい状態」になっているかどうかが、案件の生死を分ける。

BECQAが示す「顧客を社内で勝たせる」アプローチ

BECQAフレームワークの核心は、顧客担当者を「社内で勝たせる」ことにある。営業側の論理で提案を押し込むのではなく、顧客の社内承認プロセスを一緒に設計するという発想だ。

ステップ1:仮説を作り、合意を取る

まず徹底的な企業分析を行う。ただし、調べるだけでは意味がない。自社の強みと顧客の課題を重ね合わせ、「自分たちが解決できるものは何か」を探し、仮説を作ることがスタートだ。

その仮説を持って打ち合わせに臨み、合っているかを確認する。さらに、もっと大きな課題が隠れていないかを診断型質問技法で探す。そして、その課題を解決することで大きな価値が提供できることを理解してもらい、その人が社内で成功し、評価される可能性も確認した上で、課題の解決に挑戦することを顧客と合意する。

この「合意」が分岐点だ。簡単な提案書を渡して終わりではない。ここから先が本当の仕事になる。

ステップ2:社内承認プロセスを可視化する

合意を取れたら、次はその合意を顧客の組織の中で動かす段階に入る。

具体的には、顧客と共有スケジュールを作る。誰が、いつ、何をするか。社内の意思決定プロセスを可視化し、自社チームとも共有する。担当者が「次のステップ」を自分の上司に説明しやすい状態を整える。これは単なる進捗管理ではない。担当者を孤立させない、こちらが万全の体制で支援するための設計だ。

(この共有スケジュール=クローズプランの作り方と活用法は、この連載で改めて詳しく取り上げる)

ステップ3:10の要素を盛り込んだ提案書を渡す

顧客の社内には、想定外の質問をしてくる人間が必ずいる。「なぜ今やる必要があるのか」「他社と比較したのか」「導入リスクはどう管理するのか」。担当者がその場で答えられなければ、プロジェクトの推進力が一気に落ちる。

だから、10の要素を盛り込んだ提案書を事前に渡す。担当者が「この提案書を社内で見せれば大体の質問に答えられる」という状態を作る。それが支援だ。

(提案書の10要素は、連載の提案書設計編で解説する)

ステップ4:担当者と密に連絡を取り、状況を常に確認する

顧客の購買プロセスは、嵐の中を歩いていくようなものだ。順当に進むことは稀で、ハプニングやイレギュラーが起き、ちょっとした油断が状況を一変させる。

だから、日々と言っていいくらいの頻度で担当者と連絡を取り合う。今どんな状況か。何に困っているか。どうすれば支援できるか。状況の把握と十分な支援、そして担当者のメンタルのケアを続ける。それを怠れば、担当者は容易にあなたの元を離れていく。

チームで顧客の社内を攻略するために

再現性のある型があれば、特定の個人に頼らなくてもチーム全員でお客様の意思決定を後押しできる。BECQAが目指しているのはそこだ。

「俺の営業」を超える

個人の勘や経験に依存した営業は、その人が抜けた瞬間に崩れる。「あの人がいたからうまくいっていた」という組織は、持続可能ではない。

型があることで、メンバーは「次に何をすべきか」が明確になる。マネージャーは「どこに問題があるか」が診断できる。組織としての学習が積み上がっていく。

全員で意思決定を支援するという発想

BECQAの考え方では、営業は「担当者と顧客の二者間」で完結するものではない。自社のチーム全員が、顧客の意思決定プロセスに関与することを前提にしている。

共有スケジュールをチーム内でも可視化するのは、そのためだ。誰かひとりが情報を抱え込まず、チーム全員が「今この案件はどこにいて、次に何が必要か」を把握している状態を作る。これが、組織として再現性を持つということだ。組織のメンバーが一緒になって案件を取りにいき、一人ひとりが自分ごととして捉えることで、案件がみんなに守られ、不思議と案件の確度が上がっていく。

「再現性」を持つ営業組織へ——今日から変えられること

フレームワークは学ぶものではなく、使うものだ。明日の商談で試せることから始めればいい。

まず一つ、確認してほしいことがある。今担当している案件で、顧客の担当者が社内でひとりで戦っている状況になっていないか。提案書は渡したか。想定される社内の質問に担当者が答えられる状態になっているか。

セルフチェック(商談後に毎回)

  • 企業分析に基づく仮説を持って打ち合わせに臨んでいる
  • 課題解決に取り組むことを顧客と合意している
  • 顧客と共有スケジュールを作成・更新している
  • 社内説明を支援する提案書を渡している
  • 自社チームとも案件の進捗・次のステップを共有している

この5つを毎回の商談後に確認する習慣を持てるだけで、案件管理の質は変わってくる。

よくある質問

Q. BECQAフレームワークは、どのような規模・業種の法人営業に使えますか?

A. 複数の関係者が意思決定に関与するB2B営業全般に適用できる。意思決定が複雑であるほど効果が出やすい。業種による制限は特にない。

Q. 顧客担当者との関係は良好なのに案件が進まない場合、どこを確認すればいいですか?

A. 担当者との関係性ではなく、顧客の社内プロセスを確認することを勧める。「この案件は社内でどのような場で議論されますか?」と率直に聞くと、どこで止まっているかが見えてくる。担当者個人の意欲と、組織としての動きは別物だ。

Q. 「10の要素を盛り込んだ提案書」とは具体的にどんな内容ですか?

A. BECQAで定義している提案書の構成要素で、顧客社内の様々な立場の関係者が抱く疑問に事前に答えられるよう設計されている。詳細は連載の提案書設計編で解説する。

Q. 共有スケジュールを作ろうとすると顧客に嫌がられることがあります。どう対処すればいいですか?

A. 「管理したい」でなく「一緒に進めるための地図を作りたい」という姿勢で提案する。「御社の社内での進め方を私たちも把握して、必要なサポートをタイムリーに提供したい」というフレームで話すと受け入れられやすい。

Q. フレームワークを学んでも、実際の商談でとっさに使えないのですが……

A. 多くの営業パーソンが経験する壁だ。まずは商談前のチェックリスト・商談後の振り返りとして使うことから始めると、徐々に自然に動けるようになる。習慣化を優先してほしい。


チームに「再現できる型」を入れたい方へ

BECQAフレームワークを体系的に学び、実践に組み込みたい方は、BECQAトレーニングの詳細をご覧ください。まず自社の現在地を知りたい方は無料の営業力診断から。

(この連載では今後、クローズプラン=共有スケジュールの設計/提案書の10要素/セールスステージの作り方、などを順に書いていく)


この記事は Voible で執筆しました。

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酒井 秀樹
酒井 秀樹
代表取締役

大学卒業後、日本総研に入社。その後、SAP、Adobe、Qlik、Sitecore、Tealiumをはじめとする各分野のリーダー企業で30年以上にわたり、カントリーマネージャー、セールスディレクター等を歴任。その豊富な経験を生かし、セールストレックを創業。BECQAフレームワークを開発。

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